働き方改革の主なテーマ

① 時間外労働の上限規制

② 年5日の年次有給休暇の確実な取得

③ 正社員と非正規社員の間の不合理な待遇差の禁止(同一労働同一賃金)

④ 割増賃金率の引き上げ

⑤ 労働時間の把握義務

⑥ フレックスタイム制の見直し

⑦ 高度プロフェッショナル制度の導入

個別の課題解決も大切ですが、少子高齢化と言われ人手不足が本格化してきている現状では、働き方改革の取り組みを通じて、会社の生産性向上や、多様な人材が働きやすい働き方の実現など、社員や社会から見て魅力ある職場作りを行っていくことが、特に中小企業にとっては、今後会社を存続していくために重要になっていくと思われます。

① 時間外労働の上限規制(2019年4月施行。中小企業は2020年4月から)

時間外労働の上限が罰則付きで法律に規定され、さらに、臨時的な特別な事情がある場合にも上回ることができない上限が設けられます。

1.法律上、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間となります。

2.臨時的な特別な事情があって労使が合意する場合(特別条項)でも、以下を守らなければなりません。

 ・時間外労働が年720時間以内

 ・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満

 ・時間外労働と休日労働の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」が全て1月当たり80時間以内

 ・時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月が限度

3.上記に違反した場合には、罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科されるおそれがあります。

※上限規制の適用が猶予・除外となる事業・業務があります。

<対策例>

・まずは、長時間労働を是正する方針を明確に打ち出すことが大切だと思われます。

・適切な労働時間を把握し現状を知ることが必要です。

・適法な36協定を締結し届け出ましょう。

・業務の繁閑があり、変形労働時間の活用が有効な場合、導入を検討しましょう。


<生産性の向上に関係する対策例>

・業務の標準化・マニュアル化、簡素化や見える化(仕事量の可視化、情報共有)を行う。

・不要な業務や残業を削減する(例:残業を承認制に)。

・業務の細分化や人材のマルチタスク化を行う。

・機械化、ITの活用を行う。


<社員の疲労回復による副次的効果が期待できる対策例>

・休日の確保を前提としたシフトを作成する。

・勤務間インターバルを導入する(社員の健康確保、疲労回復)。

② 年5日の年次有給休暇の確実な取得(2019年4月施行)

年5日の年休を労働者に取得させることが使用者の義務となります。

1.年次有給休暇が10日以上付与される労働者が対象です。

2.使用者は、労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日から1年以内に5日について、取得時期を指定して年次有給休暇を取得させなければなりません。

3.使用者は、時季指定に当たっては、労働者の意見を聴取しなければなりません。また、できる限り労働者の希望に沿った取得時季になるよう、聴取した意見を尊重するよう努めなければなりません。

4.既に5日以上の年次有給休暇を請求・取得している労働者に対しては、使用者による時季指定をする必要はなく、また、することもできません。

5.使用者は、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければなりません。

6.休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項(労働基準法第89条)であるため、使用者による年次有給休暇の時季指定を実施する場合は、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について、就業規則に記載しなければなりません。

7.違反した場合には罰則が科されることがあります。

<対策例>

・年次有給休暇管理簿を作成し年次有給休暇の管理を行う。

・各自の年次有給休暇の取得計画を作成し経過を見る。

・例えば半年経過時に取得計画の進捗をもとに、必要であれば、時季指定により取得を促す。

③ 正社員と非正規社員の間の不合理な待遇差の禁止(同一労働同一賃金)(2020年4月施行。中小企業は2021年4月から)

1.同じ企業で働く正社員と短時間労働者・有期雇用労働者との間で、基本給や賞与、手当などあらゆる待遇について、不合理な差を設けることが禁止されます。

2.事業主は、短時間労働者・有期雇用労働者から、正社員との待遇の違いやその理由などについて説明を求められた場合は、説明をしなければなりません。

<対策例>

・厚生労働省の「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」では以下の手順が紹介されていて、手順4までの早期実施が推奨されています。

手順1 労働者の雇用形態の確認

手順2 待遇の状況の確認

手順3 待遇に違いがある場合、違いを設けている理由を確認

手順4 手順2と3で、待遇に違いがあった場合、その違いが「不合理ではない」ことを説明できるように整理する

手順5 「法違反」が疑われる状況からの早期の脱却を目指す

手順6 改善計画を立てて取り組む

<各手当等の考え方>

・厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」では各手当等について以下のような基本的な考え方が示されています。

1.基本給
(1)基本給であって、労働者の能力又は経験に応じて支給するもの
   基本給であって、労働者の能力又は経験に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の能力又は経験を有する短時間・有期雇用労働者には、能力又は経験に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。また、能力又は経験に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。

  (問題となる例)
   基本給について、労働者の能力又は経験に応じて支給しているA社において、通常の労働者であるXが有期雇用労働者であるYに比べて多くの経験を有することを理由として、Xに対し、Yよりも基本給を高く支給しているが、Xのこれまでの経験はXの現在の業務に関連性を持たない。

(2)基本給であって、労働者の業績又は成果に応じて支給するもの
   基本給であって、労働者の業績又は成果に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の業績又は成果を有する短時間・有期雇用労働者には、業績又は成果に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。また、業績又は成果に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。

  (問題となる例)
   基本給の一部について、労働者の業績又は成果に応じて支給しているA社において、通常の労働者が販売目標を達成した場合に行っている支給を、短時間労働者であるXについて通常の労働者と同一の販売目標を設定し、それを達成しない場合には行っていない。

(3)基本給であって、労働者の勤続年数に応じて支給するもの
   基本給であって、労働者の勤続年数に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の勤続年数である短時間・有期雇用労働者には、勤続年数に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。また、勤続年数に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。

  (問題となる例)
   基本給について、労働者の勤続年数に応じて支給しているA社において、期間の定めのある労働契約を更新している有期雇用労働者であるXに対し、当初の労働契約の開始時から通算して勤続年数を評価せず、その時点の労働契約の期間のみにより勤続年数を評価した上で支給している。

(4)昇給であって、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うもの
   昇給であって、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うものについて、通常の労働者と同様に勤続により能力が向上した短時間・有期雇用労働者には、勤続による能力の向上に応じた部分につき、通常の労働者と同一の昇給を行わなければならない。また、勤続による能力の向上に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた昇給を行わなければならない。


2.賞与
 賞与であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の貢献である短時間・有期雇用労働者には、貢献に応じた部分につき、通常の労働者と同一の賞与を支給しなければならない。また、貢献に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた賞与を支給しなければならない。

 (問題となる例)
  賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社においては、通常の労働者には職務の内容や会社の業績等への貢献等にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、短時間・有期雇用労働者には支給していない。


3.役職手当
 役職手当であって、役職の内容に対して支給するものについて、通常の労働者と同一の内容の役職に就く短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の役職手当を支給しなければならない。また、役職の内容に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた役職手当を支給しなければならない。

 (問題となる例)
  役職手当について、役職の内容に対して支給しているA社において、通常の労働者であるXの役職と同一の役職名であって同一の内容の役職に就く有期雇用労働者であるYに、Xに比べ役職手当を低く支給している。


4.精皆勤手当
 通常の労働者と業務の内容が同一の短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の精皆勤手当を支給しなければならない。


5.時間外労働に対して支給される手当
 通常の労働者の所定労働時間を超えて、通常の労働者と同一の時間外労働を行った短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者の所定労働時間を超えた時間につき、通常の労働者と同一の割増率等で、時間外労働に対して支給される手当を支給しなければならない。


6.深夜労働又は休日労働に対して支給される手当
 通常の労働者と同一の深夜労働又は休日労働を行った短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の割増率等で、深夜労働又は休日労働に対して支給される手当を支給しなければならない。

 (問題となる例)
  A社においては、通常の労働者であるXと時間数及び職務の内容が同一の深夜労働又は休日労働を行った短時間労働者であるYに、深夜労働又は休日労働以外の労働時間が短いことから、深夜労働又は休日労働に対して支給される手当の単価を通常の労働者より低く設定している。


7.通勤手当及び出張旅費
 短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の通勤手当及び出張旅費を支給しなければならない。


8.食事手当
 短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の食事手当を支給しなければならない。

 (問題となる例)
  A社においては、通常の労働者であるXには、有期雇用労働者であるYに比べ、食事手当を高く支給している。


9.単身赴任手当
 通常の労働者と同一の支給要件を満たす短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の単身赴任手当を支給しなければならない。


10.地域手当
 通常の労働者と同一の地域で働く短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の地域手当を支給しなければならない。

 (問題となる例)
  A社においては、通常の労働者であるXと有期雇用労働者であるYにはいずれも全国一律の基本給の体系を適用しており、かつ、いずれも転勤があるにもかかわらず、Yには地域手当を支給していない。


11.特殊作業手当(危険作業等)
 通常の労働者と同一の危険度又は作業環境の業務に従事する短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の特殊作業手当を支給しなければならない。


12.特殊勤務手当(交代制勤務等)
 通常の労働者と同一の勤務形態で業務に従事する短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の特殊勤務手当を支給しなければならない。

④ 割増賃金率の引き上げ(大企業は施行済み。中小企業は2023年4月から)

月60時間を超える残業は、割増賃金率を引上げます(大企業、中小企業ともに50%)。

<対策例>

・中小企業への適用までに、長期時間労働是正の一環として、月60時間超の時間外労働を減らすように対策を検討し実施しましょう。

⑤ 労働時間の把握義務(2019年4月施行)

働く人の健康管理の観点から、裁量労働制で働く人や管理監督者も含めて、労働時間の状況を客観的な方法その他適切な方法で把握することが法律で義務付けられます。

<対策例>

・タイムカード等を用いた適切な方法により労働時間を把握する。

・管理監督者や裁量労働制適用者についても労働時間の把握を行う。

・長時間働いた者への医師による面接指導を適切に実施する。

⑥ フレックスタイム制の見直し(2019年4月施行)

1.フレックスタイム制の清算期間の上限が3か月となります。

2.清算期間が1か月を超える場合には、労使協定の届出が必要です。

⑦ 高度プロフェッショナル制度の導入(2019年4月施行)

「高度プロフェッショナル制度」とは、高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象として、労使委員会の決議及び労働者本人の同意を前提として、年間104日以上の休日確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講ずることにより、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度です。

1.対象労働者は、一定の年収要件を満たし、高度な専門的知識等を要する業務に就く方に限定されます 。

2.対象労働者には、始業・終業時刻が指定されないなど、働く時間帯の選択や時間配分について自らが決定できる広範な裁量が認められます。

3.対象労働者には、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び割増賃金に関する規定が適用されません。

※参考資料
 厚生労働省「時間外労働の上限規制わかりやすい解説」
 厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説」
 厚生労働省「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」
 厚生労働省「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」
 厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」
 厚生労働省「高度プロフェッショナル制度について」
 厚生労働省「働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて~」

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